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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2377号 判決 1975年10月06日

昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件原告

同年(ワ)第二五〇八号事件被告

(以下単に「原告」という。)

株式会社中山電子工業

右代表者

飯田省二

右訴訟代理人弁護士

藤田一伯

右輔佐人弁理士

遠山光正

昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件被告

同年(ワ)第二五〇八号事件原告

(以下単に「被告」という。)

株式会社 マジマ

右代表者

真島宏

右訴訟代理人弁護士

大山英雄

外一名

昭昭五〇年(ワ)第二五〇八号事件被告

(以下単に「被告」という。)

株式会社 服部時計店

右代表者

服部謙太郎

右訴訟代理人弁護士

藤田一伯

右補佐人弁理士

遠山光正

主文

一  被告株式会社マジマは、原告及び被告株式会社服部時計店並びにその各取引先である小売店等に対し、原告の製造販売にかかる別紙目録記載の火災警報器付きデジタル時計について、これが被告株式会社マジマの実用新案権(昭和四九年三月一二日登録第一〇三三二一七号の火災感知器付き電気時計)を侵害するから製造販売等の行為をするなという趣旨の通知、宣伝及び広告等の行為をしてはならない。

二  被告株式会社マジマの請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告株式会社マジマの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

(一)  昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件につき、

主文一及び三の項同旨

(二)  昭和五〇年(ワ)第二五〇八号事件につき、

主文二及び三の項同旨

の判決を求める。

二、被告株式会社マジマ

(一)  昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件につき、

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

(二)  昭和五〇年(ワ)第二五〇八号事件につき、

1 原告は、別紙目録記載のデジタル時計の製造販売を、被告株式会社服部時計店は、同デジタル時計の販売をしてはならない。

2 原告及び被告株式会社服部時計店は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載のデジタル時計並びにその半製品(前項記載のデジタル時計の構造を具備しているが、未だ製品として完成に至らないもの。)を廃棄し、原告は右製品の製造に必要な金型を除去せよ。

3 訴訟費用は、原告及び被告株式会社服部時計店の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

三、被告株式会社服部時計店

昭和五〇年(ワ)第二五〇八号事件につき、

(一)  被告株式会社マジマの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、同被告の負担とする。

との判決を求める。

第二  昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件

一、請求原因

(一)  原告は、別紙目録記載の火災警報器付きデジタル時計(以下「本件製品」という。)等の火災警報機器の製造販売を業とする者であり、また被告株式会社マジマ(以下単に「被告マジマ」という。)は、火災警報機器、電気機器及び器具の製造販売を業とする者であつて、両者は、競争関係にある。

(二)  被告マジマは、原告が製造販売している本件製品に関し、原告及び昭和四九年一二月一〇日付の原告との間の販売契約による本件製品の販売代理店である被告株式会社服部時計店(以下単に「被告服部時計店」という。)に対し、昭和五〇年一月三一日付内容証明郵便(以下「本件通知書」という。)をもつて、「本件製品は被告マジマの有する昭和四九年三月一二日登録第一〇三三二一七号実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を侵害するものであるから、その製造販売を一切中止せよ。」という趣旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。

(三)  本件通知書には、原告が本件実用新案権を侵害していないのに、侵害しているという虚偽の事実が記載されているので、被告マジマの前述(二)の項の行為は、不正競争防止法第一条第一項第六号に該当する。すなわち、

1 本件考案の構成要件は、次のとおりである。

(1) 電動機々構を備えた公知の電気時計において、

(2) そのケースに煙感知装置を内装し(ケースの周壁下部に開口する集煙口上に固着する。)、

(3) 同じく感熱器を内装し(集煙口に近接してその感熱部を壁外に突出させる。)、

(4) 同じくブザーを内装し(右煙感知装置と感熱器を連けいさせる。)

た煙又は火熱の影響により警報するように構成した火災感知器付き電気時計。

2 本件製品の構造は、次のとおりである。

(1)' 器体(1)(番号は、別紙目録記載のものを指す。本件製品につき以下同じ。)内に、

(2)' デジタル時計(2)を組込み、

(3)' 同じく熱感知器(4)を組込み、

(4)' 同じく非常警報装置(5)を組込み、

(5)' 同じくブザー(3)を組込み((3)'の熱感知器と(4)'の非常警報装置に連動する。)、

(6)' 器体(1)に(2)'のデジタル時計を透視できる窓口(6)を有する蓋ケース(7)を取付け

た火熱の影響により警報するように構成したデジタル時計。

3 本件考案と本件製品の構造とを比較すると、諸点においてかなりの相違が見られるが、最も根本的な相違点は、本件製品には本件考案の構成要件(2)の装置を備えていないことである。同構成要件(2)の煙感知装置が、本件考案の必須の構成要件であることは明白であるところ、本件製品は、右煙感知装置を備えておらず、従つてまた本件考案の目的とする「多煙性もしくは火炎性火災の何れにも対処して迅速かつ的確に警報せしめうる」(別添本件考案の実用新案公報一頁1欄二八行目ないし三〇行目。以下右公報を「本件公報」という。)ことは不可能であり、また本件考案の「煙・・・・に曝され・・・・ブザー/煙感知装置(の)・・・・作動態様を形成して火災の発生をいち早く警報する。」(本件公報二頁4欄七行目ないし一一行目)という作用効果を奏しないから、他の点を論ずるまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないことは明らかである。

4 従つて、本件製品が本件考案の技術的範囲に属するとする本件通知書による本件通知は、虚偽の事実の陳述であり、原告の営業上の信用を害する行為であつて、原告は、これによつて営業上の利益を害されるおそれある者というべきである。

(四)  よつて、原告は、被告マジマに対し、当事者の求める裁判(一)の項の判決を求める。

二、被告マジマの答弁及び主張

(一)  請求原因(一)の項のうち、原告と被告マジマが競争関係にあることは否認するが、その余の事実は認める。

(二)  同(二)の項は認める。

(三)1  同(三)、1及び2の項は認める。

2  同(三)、3及び4の項は争う。

(四)1  被告マジマは、次の実用新案権(本件実用新案権)の実用新案権者である。

考案の名称 火災感知器付き電気時計

出願日 昭和四四年一月二三日

(実用新案登録願昭四四―五五二八)

公告日 昭和四八年七月一九日

(実用新案出願公告昭四八―二四七五六)

登録日 昭和四九年三月一二日

登録番号 第一〇三三二一七号

2  本件考案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲(以下単に「請求の範囲」という。)の項の記載は、次のとおりである。

「電動機機構を備えた公知の電気時計において、ケース1に煙感知装置2、感熱器3及びブザー4を内装し煙感知装置2はケース1の周壁下部に開口する集煙口5上に固着し、感熱器3は集煙口5に近設してその感熱部6を壁外に突出させると共にこれら2、3をブザー4に連けいさせ、これを煙又は火熱の影響により警報するように構成した火災感知器付き電気時計。」

3  本件考案の特徴は、次のとおりである。

(1) 本件考案の目的は、多煙性又は火熱性火災のいずれにも対処して、迅速且つ的確に火災の発生を警報する火災感知器付き電気時計を一般に提供することにある。

(2) 本件考案の構成は、電動機々構を備えた公知の電気時計のケースに、煙感知装置、感熱器及びブザーを内装し、他の電気的諸装置に導線接続して回路を形成し、これを煙又は火熱の影響により警報するようにしたものである。

(3) 本件考案の作用効果は、電気時計の付近に火災が発生し、又は火災発生状態になり、煙感知装置又は熱感知器が一定量の煙又は一定温度以上の熱を感知したときは、自動的に迅速且つ的確にブザーを作動せしめ警報を発するところにある。そして、煙が散逸して一定量以下となり、及び温度が一定温度以下になると、煙感知装置及び感熱器は、自動的に常態に復し、ブザーは、作動を停止する。

本件考案は、電気回路の開閉により、熱→警報、煙→警報、熱及び煙→警報という機能を有するわけである。

(4) 本件考案の詳細は、別添本件公報に記載のとおりである。

4  原告は、本件製品の製造販売を、被告服部時計店(以下原告及び同被告を「原告ら」という。)は、本件製品の販売をそれぞれ業として行おうとしている。

5  本件製品の特徴は、次のとおりである。

(1) 本件製品の目的は、火災に対処して、自動的に迅速且つ的確にその火災を警報する電気時計を一般に提供することにある。

(2) 本件製品の構造は、電動機々構を備えたデジタル時計(2)の器体(1)に、熱感知器(4)、非常警報装置(5)及びブザー(3)を組込み、これらを他の電気的諸装置に導線接続して回路を形成し、これを火熱の影響により警報を発するようにしたものである。

(3) 本件製品の作用効果は、デジタル時計(2)の付近に火災が発生し、又は火災発生状態になり、熱感知器(4)が一定温度以上の熱を感知したとき、ブザー(3)を作動せしめ警報を発するところにある。温度が一定温度以下になると、熱感知器(4)は、自動的に常態に復し、ブザー(3)は作動を停止する。

本件製品は、電気回路の開閉により、熱→ブザー(3)という機能を有する。

(4) 本件製品の構造の詳細は、別紙目録記載のとおりである。

6  本件考案と本件製品の構造とを対比すると、本件製品が本件考案の技術的範囲に属することは明白である。

すなわち、

(1) 本件製品の目的は、火災の迅速且つ確実な報知であつて、本件考案の目的と同一である。

(2) 本件考案は、公知の電気時計に熱感知器、煙感知器及びブザーを内装し、熱又は煙の影響によりブザーが作動するように電気回路を構成し、熱→ブザー、煙→ブザー、熱及び煙→ブザーの機能を有するものであるのに対し、本件製品は、デジタル時計(2)に熱感知器(4)及びブザー(3)を内装し、熱の影響によつてブザー(3)が作動するように電気回路を構成し、熱→ブザーの機能を有するものである。従つて、本件製品は、本件考案の一部を利用したものである。

なお、本件製品のデジタル時計は、内装する電動機器によつて作動するものであつて、電気時計の一種であることはいうまでもない。

(3) 本件製品では、時計の電気機器と熱感知器(4)とブザー(3)による電気回路が熱の影響によつて開閉し、ブザー(3)が作動するものであつて、本件考案の機能のうちの一つを借用するものである。

(4) 右のとおりであるから、本件製品を製造販売する行為は、本件実用新案権を侵害するものである。従つて、被告マジマが、原告に対し、本件製品の製造販売を、被告服部時計店に対し、本件製品の販売をそれぞれ差止めようとするのは当然の権利行使である。被告マジマの行為は、不正競争防止法第一条第一項第六号に該当しないというべきである。

第三  昭和五〇年(ワ)第二五〇八号事件<略>

第四  証拠関係<略>

理由

第一昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件

一原告が本件製品等の火災警報機器の製造販売を業とするものであること及び被告マジマが火災警報機器の製造販売を業とする者であることは当事者間に争いがない。

そうすると、原告は、被告マジマとの関係において、不正競争防止法第一条第一項第六号の「競争関係ニアル他人」に当たるものというべきである。

二被告マジマが原告の製造販売にかかる本件製品に関し、原告及び昭和四九年一二月一〇日付の原告との間の販売契約による本件製品の販売代理店である被告服部時計店に対し、本件通知書をもつて本件通知をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、本件通知は本件製品を製造販売する行為が本件実用新案権を侵害していることを内容とするが、本件製品は本件考案の技術的範囲に属しないから、本件通知は不正競争防止法第一条第一項第六号にいう「他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽の事実ヲ陳述」する行為に該当する旨主張し、被告マジマはこれを争い、本件製品は本件考案の技術的範囲に属するから、本件通知は右法条にいう虚偽の陳述に該当しないと主張するので、この点について検討する。

(一)  被告マジマが本件実用新案権の実用新案権者であること、本件考案の請求の範囲の項の記載が昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件の被告マジマの答弁及び主張(四)、2のとおりであること及び原告が本件製品の製造販売を、被告服部時計店が同製品の販売をそれぞれ業として行おうとしていることは当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない請求の範囲の項の記載によれば、本件考案は、次のとおりの構成要件からなるものであることが認められる。

(1) 電動機々構を備えた公知の電気時計において、

(2) ケース1(番号は、成立について争いがない乙第二号証――本件公報――記載のものを指す。本件考案につき以下同じ。)に煙感知装置2、感熱器3及びブザー4を内装し、

(3) 煙感知装置2はケース1の周壁下部に開口する集煙口5上に固着し、

(4) 感熱器3は集煙口5に近設してその感熱部6を壁外に突出させると共に、

(5) 煙感知装置2と感熱器3をブザー4に連けいさせ、

(6) ブザー4を煙又は火熱の影響により警報するように構成した

(7) 火災感知器付き電気時計

(三)  右のように本件考案は、ケース1に煙感知装置2、感熱器3及びブザー4を内装する(構成要件(2))ものであるのに対し、本件製品には、煙感知装置がない。そうすると、本件製品は、本件考案の構成要件(2)を充足せず、従つてまた、同構成要件(3)、(5)及び(6)をも充足しない。

よつて本件製品は、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

被告マジマは、(イ)本件製品の目的は火災の迅速且つ確実な報知という本件考案の目的と同一であること、(ロ)本件製品は、煙感知装置を備えていないが、熱感知器(4)及びブザー(3)を内装し、熱の影響によつてブザー(3)が作動するように電気回路を構成し、熱→ブザーの機能を有するから、本件考案の一部を利用するものであること、(ハ)本件製品は、時計の電気機器と熱感知器(4)とブザー(3)による電気回路が熱の影響によつて開閉し、ブザー(3)が作動するものであるから、本件考案の機能のうちの一つを利用するものであることを理由に、本件製品は本件考案の技術的範囲に属すると主張する。しかしながら、実用新案権は目的や機能に付与されるものでないことはいうまでもないから、右(イ)及び(ハ)の主張は個々的にはそれ自体理由がなく、また右(ロ)の本件考案の一部を利用するものであるとの主張が構成要件の一部でも充足すれば考案の技術的範囲に属するという趣旨であれば、右主張は、考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないこと(実用新案法第二六条が準用する特許法第七〇条)に反し理由がないし、右主張が煙感知装置の存在は必須の構成要件ではないとする趣旨であるとしても、その主張は次のとおり理由がない。すなわち、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない(実用新案法第五条第四項)ものであるところ、前認定のとおり、本件考案の請求の範囲の項にケースに煙感知装置を内装する構成が記載されているばかりでなく、本件公報によれば、詳細な説明の項に、本件考案の構成として請求の範囲の項と同一の構成が記載されており、また実施側に即し、煙感知装置の構成及び作用効果が詳細に説明されており、更に本件考案に煙感知装置を設けたことによる本件考案の作用効果が記載されていることが認められ、反面煙感知装置を内装することが本件考案の構成要件ではないことを窺わせるような記載は全くない。煙感知装置を内装することは、本件考案の必須の構成要件であることは明らかである。被告マジマの主張は理由がない。

(四)  右のとおりであるから、本件製品の製造販売が本件実用新案権を侵害するとの本件通知は、真実に反するものであつて、不正競争防止法第一条第一項第六号にいう「虚偽ノ事実ヲ陳述(スル)行為」に該当するものというべきである。

(五)  原告と被告服部時計店との間に昭和四九年一二月一日本件製品の販売契約が締結されたことは当事者間に争いがないところ、<書証>によれば、被告マジマが同服部時計店に対し、本件通知をしたことによつて、同被告が本件製品の販売を中止するに至つたことが認められ(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右事実によれば、本件通知が、原告に対する関係で、不正競争防止法第一条第一項第六号にいう「営業上ノ信用ヲ害スル」ものであること及び本件通知によつて原告に同条同項にいう「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞」が生ずることは明らかである。

(六)  以上のとおりであるから、原告が被告マジマに対し、同被告が原告、被告服部時計店及びその各取引先等に対して本件製品が本件実用新案権を侵害するからその製造販売等の行為をするなとの趣旨の通知等をすることの差止めを求める請求は理由がある。

第二昭和五〇年(ワ)第二五〇八号事件

昭和五〇年(ワ)第二三七七号事件についての前判断によれば、本件製品は、本件考案の技術的範囲に属しないものであるから、技術的範囲に属することを前提とする被告マジマの原告らに対する請求は理由がない。

第三よつて、原告の被告マジマに対する請求を認容し、被告マジマの原告及び被告服部時計店に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(高林克己 小酒禮 清水利亮)

目録<省略>

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